CONTAkun’s diary

北海道コンサドーレ札幌サポでございます

トトの恩返し。

私は夜、部屋に篭る…

家族に覗かないでと言い残し。

私は夜、旗を織る…

美術が3年連続1の中学時代を送った男が。

私はやがて、恩返しをする…。

最初は威勢がいいが、後から怖気付く男が。

 

 

 

「トトは友達いるの?」

そう息子に聞かれたのはいつだったろう。

多分あれは彼が小学校に入学する頃か。

社交的な母とサッカーにしか興味のなさそうな父を見比べて息子がした質問は池上彰でなくとも「いい質問ですねー」と言いたくなる鋭い問いだった。

「ん?いないね」

それは聞いてはダメなのよとでも言うような顔で8歳年上の娘が笑いを堪えている。

「でもこれから作る。未来は誰にもわからないだろ!」

私は、昔から最初は威勢がいいのである。

「どうやって?」

意地悪そうに今度は声に出して娘が言った。

ウーンと、あれだ!アレ!

Twitterだ‼︎世界中の人の友達になれる!」

息子は「おっー!」娘は「フン」と言ったきり

二人ともそれぞれの部屋に入って行った。

妻は夜勤の夜。一人リビングに残された男は自分の人生を振り返る。

そんな夜で、そんなお年頃だったのだろう。

「トト、おーえんしてるよ!」

息子が、姉に見つからないように部屋から顔を出し小さな声で言った。

その声を合図に私は放置してあったTwitterのアカウントを開いた。

 

 

 

 

「今年は道外遠征だ!」

こう威勢よく家族の前で叫んだのは、去年の正月。アウェイと言わなかったのはルヴァンと天皇杯を目論んでいたのか今では覚えていない。

「絶対だねー。みんな聞いたね!」

こういう時の妻を頂点とする家族の三角形は固い。私を入れての四角形より座りがいいのだろう。そうやって我が家族は成り立っている。

あれからTwitterは続けていた。

友達は…まだできない。

当初の反応の無さと言ったら世界はおろか我が家だけとにしかこのツイートは飛んでいないかと言う状態だった。何かの度にスマホをいじる私に「友達できた?」と尋ねてくる息子の手前何とか毎日呟いていた。でも140字以内という短さはものぐさな私に丁度いい数字だったのかもしれない。ツイートだけは毎日していた。

だがそんなある日、我が家の三角形の頂点たる人物が私に言った。

「アンタどんなツイートしてるの?」

知ってたのか…。

「いやその…、日常の事とか…コンサの事とか」

「お前はアイドルか?誰か40オーバーの日常に興味ある?」

「いやTwitterは好きな事を呟ける…」

「友達作んでしょ。世界中に…」

息子か?娘か?密告したのは?

この際どちらでもいい。連帯責任だ。

「普通の親父のツイートを誰がね…」

 

ふつう…。FUTSU…。普通…。不通…。

 

その時私は思った。ふざけようと。

 

 

 

 

 

「やっぱ迫力が…俺が選手を後押しするぞ!」

 

声を出さずとも威勢よく思った。

真面目にふざけていたTwitterで友達に…いやおこがましい…、知り合えた方達に混ぜて貰い私はルヴァンの準決勝ドームのゴール裏にいた。

得体の知れないツイートの主に危険を顧みず声をかけていただいたのは夏真っ盛りの浦和戦。ご挨拶をかわしその数ヶ月後に鈴木武蔵の線を引くようにネットに突き刺さる

ゴールをいつもより間近で見、そして決勝進出のホイッスルを聞き、私はのこの場所で見れた事に心からカンドーしていた。

ホイッスルから間髪入れずにきた妻からのLINEも同じドームの屋根の下のどこかで見ていた興奮にかこつけて三角形の連帯でのおふざけだと思っていた。それほど非日常だった。

 

「コレ、埼玉にかがけてくださいヨ」

その友達…いやお知り合いの方から旗を渡された。

ゲーフラっていうんだっけ?

「いや、まだ行くの決定した…」

「いいんです。行ったらで」

駐車場で待つ三角形達と合流すべきいそいそとみなさんに別れを告げた私。

困ったぞ。威勢よく道外遠征と言った正月からからもう10ヶ月も経つ。妻に何と言おう。

こんな機会は2度とないかもよ!

仕事はなんとか…してさ!

お金は…魔法のカードがあるじゃないか!

 

道中様々なイメトレをしたが、妻が絡む

イメトレが上手くいった試しがない。

しかし、駐車場に着き妻が開口一番に言ったセリフに非日常が現実になる。

 

「さあ我が家まで約5時間。貴方がコレからする事。今すぐ決勝の日のシフトを組みなさい。そしてみんなに連絡を取る。頭を下げて休みを貰いなさい。飛行機はもう四人分とった。お金はまぁなんとかなるでしょ。私の方は帰りの運転とそうね、当日の仕事は…最悪、アンタのお爺さんを殺めるよ」

おふざけではなかったのね。あのLINE。

一気に目の前で話した彼女からの数十分前のLINEには「怖気付くなよ!埼玉!」と書いてあった。最初も最後も威勢がいいのは妻だった。

 

 

「俺さ、ゲーフラ作ってみようと思ってるんだ。誰も作んない俺らしいのをさ…」

終戦の往復の運転も結局一人で請け負った妻に私は言った。

「私が手伝えば簡単だけど、そう思ったならアンタ一人でやりなさい」

助手席の私は黙って頷く。

後部座席では息子だけが寝ている。

娘は今回は部活の練習。1日だけ休めないと言う私に「無理!」と、母親譲りの威勢の良さでいった。

 

ルヴァンの決勝は無理言って部活休んでもらって旅の道中、弟の相手をしてくれた。

 

…でも聞いて。トトね。

終戦の試合後にね友達と…いや仲間とお酒飲んだんだよ。

楽しかったな。

お前がアカウントの作り方教えてくれたおかげだよ。

そこでねみんなのと飲んでたら

またトト威勢よく思ったんだ。

「俺もゲーフラ作ろう」ってね。

声に出しては言わないよ。言ったら最後までやんないといけないしそれに、恥ずかしいからね。

でも今度は最後まで、

自分のゲーフラを試合で掲げるまで、

怖気付かないで一人でやってみる。

カカの手も借りないでね。

だから年が明けて仕事が終わったら

毎晩部屋に篭るよ。

そう、コレはトトの恩返し。

 

いつも背中を押して崖から突き落としてくれるお前達に。

変なツイートを見て手招きしてくれたあの人に。

ゲーフラを渡して踏ん切りをつけてくれたあやつに。

バッチをくれたおじさんに。

楽しく飲んで刺激をくれたみんなに?

 

「それって恩返しになるの?」

娘の声が聞こえた気がした。

 

ウーン。

どうかわかんないな。

だからダメだって、色々考えるとまた怖気付いちゃうから…。

時間はある。やってみるよ。

そっと見守ってください。あ、完成までのぞいちゃダメだよ。

 

その時、妻が道路を塞ぐ鹿に威勢よくクラクションを鳴らした…。