CONTAkun’s diary

北海道コンサドーレ札幌サポでございます

ある夜の妄想。

「お父さん。娘さんを私に…」

妄想である。得意なのである。

 

妻は留守。息子は自部屋でユーチューブに夢中だ。

リビングには私と娘の二人きり。

 

静かだ…。

 

最近二人きりの会話はめっきり減ってきた。

この静けさから逃避するために私はいつものように妄想に逃げてしまう。

クラシックを片手に何度目かのコンサの勝ち試合を見ているそんな私の横でお前は勉強をしている。私の16歳の頃とは似ても似つかぬお前は真面目に勉強をしている。「勉強」!

私と妻は家で勉強を禁止された家庭で育ったのにその娘のお前は誰に言われるでもなく

「勉強」を!!

心の中で二度も叫んでしまった…。

 

しかし一つお前に聞きたい。

何故いつもリビングで勉強する?

私に分からないところを質問する訳でもなく。黙って私の横で。

それは私の少年時代への当てつけか?

自分の部屋があるではないか!

おかげで私は学生時代に味わったあの劣等感とお前と二人きりの緊張感に苛まれてしまうではないか…。

 

「何?」

そんな目で見るな。

「いや、頑張るなーと思って…」

「……」

アレ、お父さんの声はお前には聞こえないのか?

会話は最低2ターンくらいしようではないか…。

「会話と笑顔とサッカー」と。

そういう家庭を築こうと私はお前が生まれた病院で心に誓ったはずだった。

「……」

そうか。勉強に集中しておるのだな。

お前の勉強の邪魔をするのは私の本望ではない…。

お前は、勉強を。

私は…妄想の続きに戻るとしよう。

 

荒野拓馬と申します。職業はプロサッカー選手です。娘さんと結婚したく本日はご挨拶に…」

知っとるよ…。

よ〜く知っとる。何なら君のファンだよ。

しかしこの妄想は私の親父としての見せ場でもあるのだ!自分本位に親父の威厳をエンジョイさせて頂く。

 

「き、君はどう言ったプレイヤーなのかな?」

「はい。チームでも中堅の年齢になり、献身的なプレイと運動量が持ち味です」

「ゴール」は…。J1でのゴールは!!

一つ聞きたい?

君はこれから父になるこの私がどんだけ君のゴールを待ちわびてるのか知っとるのか?

献身的?運動量?知っとるよ。充分知っとるわい!

だがここぞという時に値千金の得点を取れる選手になって欲しいのだ。お父さんは!

君のデビューは攻撃的な選手ではなかったではないか。カテゴリーは違えど見事なゴールを決めていた…。若さ溢れる荒馬ぶり。惚れ惚れした。

それをなんだ君は!結婚なんて!まずはJ1でゴールして私の願望を叶えてそして「娘さんをください」と私の所へくるのが順序ってものだ。順次がなっとらん。近頃の若いモンは。

それにアレだ。義理とはいえ君が息子になるとシュートを外す姿は私は正視できん。

君を愛するが故だ。申し訳ない。娘はやれん。

チェンジだ!チェンジだ!

 

「はじめまして。深井一希と申します」

おー!深井さん。さっきの相手と違ってより一層の緊張感が…。

それは君から溢れ出る存在感、将来性、寡黙な男ぶり。ジッと見つめられると私の方が貴方に結婚を申し込んでしまいそうだ。申し分のない相手だ。

だが、まてよ…。貴方はその将来性故に、我が愛する赤黒のクラブから旅立ってしまうのでは?いや、貴方にその意思が無くとも他クラブがほっとかないはず。いやその位の選手、そうなってもらわないと私が貴方に抱いた希望を息子の君が裏切ることになるんだぞ!義理の父の夢をだ。

しかしまた別の問題が。他クラブの息子を応援できるほど私は大人ではない。近年我がクラブもなかなか魅力的になってきた。それに、それに今度は私がコンサを裏切る事になる。

例えばリーグが違うなら…そう、海外なら!心より応援できる!貴方にはそれくらいのポテンシャルがある。

ただしクラブW杯以外ならな!我がクラブも知っての通り世界を目指しておる。その時は申し訳ないが赤黒のチームを応援させてもらう。

はっはっはー。どうだ明暗だろ!

いや…待て。その時は妻である娘も一緒に海外に…。孫の顔も見たい。ドームに行くのもやっとの私に海外なんて。

いやぁ、ダメだ!認めるわけにはいかん!

チェンジだ!チェンジだ!

 

「わたし、チャナティップとモウシマス。オトーサン、ナマラサイコーネ!」

なまらの使い所はさておき、君こそ最高だ。

母国の大スターが国の期待を背負って異国のクラブに入り堂々の助っ人としての活躍。そして何より君のその誰からも愛されるキャラクター。娘には勿体ないのでは…

「ต้องการดูแลลูกสาวของฉัน ฉันต้องการให้พ่อยกโทษให้คุณ…」

「えー私は大切するね。ムスメを…ムスメさんを…」

ティーさんまで一緒に来ていただき…。

しかし、いきなりの国際結婚…。

いや、そんな古い人間だと思わんでくれ。国際結婚に否定的なのではない。私の妄想が国際結婚に追いつかないのだ…。これから結婚の妄想をする際、君の国の事をもっと勉強したい。

君の国の言葉も。そうそれは、君が私の故郷にしてくれた事だ。もっと貴方の故郷を知りたい。それが君を尊敬する私の大きな要素だ。私にも君と人間的に対等になる時間をくれたまえ。このままでは親戚一同が集まった時劣等感で小さくなってしまう。その時までもう少し時間をくれないか?すまん。

ここは涙を飲んでチェンジだ。チェンジだ!

 

「はじめまして。左足が得意な福…」

チェンジだ!既婚者はダメだ!

妄想の度がすぎる。

チェンジだ!チェンジだ!

 

「最後に登場です。進藤亮佑と申します」

ラスボス登場だな。今晩の妄想を締めくくるに申し分のない相手だ。君の近年の活躍ぶりには

私も十二分に感心しておるぞ。

進藤派なるものまで存在しておる。

君のメンタルとその自己表現。

これは妻共々感心している。アスリートに限らず人間の成長に必要な大きな要素なのであろう。私の大事な娘にもそこを君から学んでほしい。自分はどういう人間か?自分をどう表現するのか?娘ならずとも私も日々悩んで生きている。娘にそれを教えてあげる事は出来ない頼りない父親だ。進藤君、今夜は私の話を聞いてくれ。

娘は小さい時からさほど手のかからないおとなしい子だった。それなりに勉強はできたようだ。学校の先生からもしっかりしてると言われた。しかし私はある疑問が?

その優等生ぶりは、自分を押し殺しているんではないか?自分を表現する手段が見つからないのではないのか…。

そんな娘とは小さな頃からコンサの試合を見に引っ張り回した。

ほぼ私の腕の中で眠っていた頃からやっと90分間目を開けている体力がついた頃。

その体力が有り余りドームのキッズスペースから解放してくれずそこから眺めた試合。

終始試合を見ずピッチ最前列から観客席を見てサポーターを写メでとっていた室蘭での試合。

数々の想い出がある。

そんな娘が中学生の頃ある試合で劇的な逆転ゴールに立ち上がり見知らぬ人とハイタッチをした。私はどんなゴールより嬉しかった。

そうだ、私が娘に見せたかったのは自分の感情を誰の目も気にする事なく表現する選手の姿、進藤君のような姿だ。娘もその洗礼を受け自然と立ち上がった!

それは娘と同じように感情表現が苦手だった私がコンサを観るようになって覚えた事。お前に伝えられなかった事…。

今はそれなりに高校生活を楽しんでいるようだ。部活に趣味に満喫しておる。

私は何もしていない。

そう、コンサの試合が教えてくれた。

と言ったら妻はに怒られるだろうな…。

進藤君。長くなった。君に託そうか。私の娘を。派手な結婚式は苦手だ。ごく親しいこぢんまりとした式で良いのではないか。娘からの御礼の手紙などはやめてくれよ。そんな事をされたらいくら感情表現が苦手な私でも…

 

「トト!トト!おい!」

いかん。妄想が過ぎて眠りについていたようだ。

「寝るんなら電気とテレビ消してね。ここで寝てるとまたカカに怒られるよ」

お、おうすまん。そんな心配まで…。

「ホラ、テレビ消して。もう、内村ゴールしたよ。何回この試合見るの。私寝るよ」

画面では千葉県のスタジアムで赤黒の選手達が観客と一体になって喜びを表現していた。

「ありがとう。おやすみ」

「……」

娘はまた無言で部屋に入って行った。

日常では嫌なニュースも沢山ある。でもそれが全てではない。常にその中でも楽しい事を探して生きて行ってくれ。それを自分なりに表現してほしい。疲れた時は私のように妄想すれば良い。まぁ私の場合はもう、そうするしかないのかもしれんが…。

よし、久しぶりに一緒に試合に行こう!最近お前の知らない若手も沢山我がチームに出てきているぞ!新しいパートナー候補を捜しに行こう!

今晩は私の妄想に登場してくれてありがとう。

登場してくれた選手への失礼は、試合に行った時にしよう。力一杯の声援でね。