CONTAkun’s diary

北海道コンサドーレ札幌サポでございます

ルヴァン・ゲリオン⑦

Episode Ⅶ

「北の果てで愛を叫ぶ」

 

 

 

「新聞届きました。ありがとうございます」

 

メールには確かにそう書いてあった。

いや、いや、いや。

あの新聞は目下、絶賛行方不明中。

今頃はたぶん、ゴミとして街の処理場に。

全ては自分のだらしなさ、からなんだけど。

 

一応、清掃局に電話はしてみた。

勿論、電話の相手は困惑していた。

話しをしていて僕は、いかに失礼な電話をしているのかと気づいた。

だって、いくら小さな街とは言え無限に回収した黄色い袋の中のスポーツ新聞の事なんて。

困惑気味に、しかし至極丁寧に答える電話の相手に僕は礼を言って、電話を切った。

 

それからの数日。

出来る限りの事はしてみた。

そして、諦めた。

 

あとの僕は、その事ばかり考えていた。

一体、親父に

「なんて言い訳しようかと…」

言い訳…。

この後に及んでまだ言い訳しようとしている自分が心底情けなかった。

妻からはすぐ電話しなさいと言われた。

 

「もう、うだうだ考えたってしょうがないでしょ。あやまるしかないんだから」

 

そうなんだ。こうなった以上、もうそうするしかないんだ。

そしたらまた親父は「わかった」とだけ小さく言うんだ。

よし…。電話しよう、…明日。

だって、今晩はもう遅い。老人の夜は早い。

…明日だ。明日の朝。

いやあんまり早くてもダメだ。

寝起きにかこつけたと思われる。

誠意がないと受け取られる。

明日の夜だ。それがいい。

でも、待てよ、明日は遅番だ。

あんまり夜遅いのはやっぱりさすがに…

って、なんで僕はそうやってなんでも先延ばしにする。昔から何にも変わってない。部屋の掃除が苦手なのも、すぐやればいい事を後回しにするのも、嫌な事からも全部逃げてばかりだ。

そう考えていたところだった。

「届きました」って

 

なぜ…。

 

その時、ふと遠くで声がした。

 

「なぜって…わからんのか」

 

あの無愛想の声。

 

えっ?

 

「なぜ私のもとに届いたのかおまえホントにわからんのか」

 

父の声だ…。

いや、わからないよ。

だってアレは大掃除の時に…

 

「おまえは家族の事ちゃんと見てるのか」

 

家族の事?

み、見てるよ…

 

「じゃあ。わかるはずだ」

 

え?見てるつもりだよ。

確かに仕事忙しいけど。

なんだったら最近じゃ、大きくなってから

あっちの方が僕の事を…

 

「本当にそうなのか?」

 

ホント?いやたしかに…

 

「トト〜!ちゃんとみてるわよ!」

 

え?

 

「そーだよ。カカに怒られてるのネネと一緒に見てるよ」

 

またどこからか声がした。

良く聴き慣れた二人の声。

 

「トト。ゴメーン。あのね、じつはねあの新聞僕が学校に持ってたの!」

 

…学校?

 

「ほら、それじゃトトわかんないでしょ。

習字の時間で使うのに新聞持ってたんでしょ」

「だから!今それを言おうと思ってだんだよ。倒置法だよ。ネネはすぐ言っちゃうんだら。 だいたいあの新聞渡した犯人はそっちだろ!」

「ちょっと待ってよ。人のせいにしないでよ。誰が学校まで届けたと思ってんのよ!」

 

おい、お前達、喧嘩はいい。

その先を、その先を続けてくれ。

 

「そんで、習字の時間が来たわけ。で、新聞見て気づいたんだ。なんとあの埼玉のルヴァン・カップの付録がついてんじゃん。アチャー。これ、ダメなやつだよって」

 

あの、新聞…捨てたんじゃ…。

 

「ネネにはせっかく届けてもらって、ホント申し訳ないんだけど。コレダメなヤツだから、なんとか守りきって家に持って帰らなきゃってね」

「確かに。あの日の新聞じゃしょうがないわね」

 

お前達…。

 

「で、新聞使わなくてて先生に怒られなかったの?」

「それが大変だったよ。でも大丈夫。ボク、トト譲りの屁理屈を先生にまくし立てて、なんとか切り抜けた。おかげで新聞に下書きなしの一発勝負でやってやった」

「ハハハ。屁理屈って。

で、なんて字書いたんだっけ?トトに教えてあげれば」

「はい、では発表です。その字は…『景色』でーす」

 

…景色。

そうか、守り抜いてくれたか。

あの日のあの景色を…。

そして僕と親父との約束の新聞を。

いや、で、でもその守り抜いた新聞が

どうして親父のもとへ。

 

「アンタ‼︎まだわかんないの!」

 

また別の声がした。

その声を聞くとまた怒られるといつもの癖で肩を上げて首をすくめちゃった。

 

「お仕置きよ!アンタが自分の部屋の片付けをしない事のね!」

 

お仕置き…

 

「いやー!トトまたカカに怒られた!」

「あんまり苛めないで上げてね!」

 

そ、そうか‼︎

 

「子供達が言ったのよ。おじいちゃんと約束してた新聞だって」

「だから私達で送っといたよ!」

「そう。ボク達の手紙もつけて!

だってねもうすぐお正月も近いでしょ!お年玉の件もあるしね」

「やー!打算的!」

「ネネ、打算的って何?」

「あとで説明してあげるわよ」

「どう?驚いた?」

 

知ってたのか…。

でも、あの新聞の約束までお前達…。

 

「トト〜。だからちゃんと見てるって言ったでしょ」

「ネネの言う通り!見てないようでボク達見てんだよ!トトはボク達の方ちゃんと見てる?」

「どうなの?子供達の方がアンタよりしっかりしてるわ」

 

そうだったのか。

僕は毎日ちゃんとお前達を見れていたのか。

仕事にかこつけてみたフリをしてるだけだったのか。

何にも見れてなかった…。

 

「わかったのか?」

低い声がした。

昔から僕の胸の奥を掴んで聞いてくる

あの声だ。

 

「うん…。わかった」

僕は子供のように答えた。

 

ありがとう。みんな。

あの埼玉の旅も、あの試合も。

やっぱり連れてったのは僕じゃない。

みんなが連れてってくれたんだ、

 

 

「よーし。やっと、わかったところでさぁ解散!アンタ達早く寝なさい!冬休みだからってダラダラした生活ダメだからね!」

「はーい!怒りだす前に寝るわよ」

「じゃあ、おじいちゃん。おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ」

 

ちょっと、ちょっと待ってよみんな。

せっかく、せっかく集まったんだから。

集まったんだから…

もっと、もっと…。話そう!

 

「なんについて?」

「どうせトトの事だから…」

「コンサしかないか」

「お義父さん。もう少しいいですか?」

「あぁ、いいよ」

 

お見通しか…。

うん、でもやっぱりコンサの事がいい。

みんなとの僕の真ん中は…コンサドーレだ。

 

 

「じゃあ2019年、コンサについて一言」

「はーい僕から。うんとね。北海道コンサドーレ札幌。今年も色々ありました。ドームも行ったし。アンロペの落下もみれたし。厚別のナイターもみたし。そしてなんと言っても初遠征。何にしても沢山の新しい景色を見せてくれて…」

「見せてくれて?:

「…おめでとう‼︎」

 

おめでとう…

 

「えー何ソレ!ありがとうじゃないの!」

「ううん。ありがとうじゃないよ。おめでとう!だよ!いいよね!おじいちゃん!」

「あぁ。いいよ」

「トトも、ありがとうじゃなくて、おめでとうだよね」

 

そうだ。

ありがとう、じゃ、矢印がこっちに向いてる気がする。

相手に向けた、おめでとう…がいい。

 

「よし!OKが出ました。おめでとう」

「わかった。おめでとう」

「だれに?」

「おめでとう。選手のみなさん」

「じゃ私は、おめでとう。ミシャ監督」

「何言ってんの、おめでとう。社長」

「おめでとう。スタッフのみなさん」

「おめでとう。サポーターのみなさん」

「他には?」

「おめでとう。北海道‼︎」

「おめでとう北海道コンサドーレ札幌に関わる全ての人に‼︎」

 

うん

おめでとう

みんな おめでとう。

おめでとう、2019 年

そして、…そして

来るべき、希望の2020年に…

 

 

「おめでとう」

 

また…

来年、みんなでまた試合行こう…ね。

 

 

                                    …The end.

 

 

 

 

※この物語は昨年末の実話を元にしたご想像どおりのフィクションです。

もし最後まで読んで頂いた物好きの方がいらっしゃいましたら心からありがとうございます。

そして。また、いつの日かスタジアムにて…。