CONTAkun’s diary

北海道コンサドーレ札幌サポでございます

人生を乗っける…

「他に楽しみないのかね…」 

彼は私に向けてなのか独り言なのかしいて言えばその真ん中くらいの感じで呟いた。

 

あれはたぶん高校の部活終わりの定食屋。

店の片隅に無造作に置かれた14インチのテレビ。

そこには中年男性が巨人のユニフォームに身を纏い「打てー!」と吠える姿があった。

熱狂的ファンの密着取材か何かだったんだろう。

「……」

彼は暫く何を言うでもなく画面を見つめ視線をラーメンに戻した。

 

 その彼とは小中高と同じ学校。クラスは一緒になったりならなかったりだが、サッカー部で6年間一緒に汗を流した。

いや、一緒と言ったら彼に怒られる気がする…。

彼は私達の弱小サッカー部にはもったいない程の実力で、継続は力なりと言う言葉に負んぶに抱っこの私の実力にはたぶん結構な不満を持っていた。

 直接何か言われた訳でもなく、彼へのパスがそれると一瞬鋭く私を見ていつもの顔に戻る。

そういう事が何度かあった。

 

「自分の人生乗っけちゃってるもんね」

相槌って程対等ではなく、調子を合わせたというほうが正解な感じで私も巨人のおじさんから視線を離した。

 その後その定食屋で何を話して、どうしたのかなんてまるで覚えてない。ただその日の彼のトーンとセリフの言い回しがまるでいつもと違う気がして、でも彼を表現するには的確な様でもあって。

まるでワンシーンだけ覚えている映画みたいに鮮明な記憶として今でも残っている。

 

 「ポドルスキー退場だ…」

彼の息子がちょっと残念そうに呟いたのはそれから20数年後の札幌ドーム。

私と彼も20数年振りの再会。

ヒョンな事から赤黒のチームの試合を一緒に見る事になった。

私がスペイン人のスーパースターを餌に思い切って彼を誘った。

彼は当日、小学5年生になる息子を連れてきた。私は正直彼が息子を連れてきてくれて安堵してた。

思い返しても彼と2人きりでいた事は小学校の時から記憶にない。

あの定食屋にも、きっと誰かいたのだろう。

しかし都合よく編集されたテレビのように2人きりで話していた記憶になっている。そんな事は考えられない。そんな関係だった。

 

 試合はホームチームの勝利に終わり、始めて見たチームの試合に彼もそれなりに楽しめた様子だった。

そして私の赤黒のユニフォームを指し、

「いいね、それ」と言って少し笑った。

彼と別れた後、なぜだか涙がでた。

 

それから数週間後。

20数年ぶりには遠く及ばないけどなんだか長く感じた数週間。

日常の幸せ、サッカーのある喜びを実感せざるを得ない数週間だった。

 

彼からメールが来た

地震も落ち着いたし今度はサガントーレス見に行きませんか?」

文末の絵文字付きで。

 

再びドーム。

ちょっと遅れてきた彼はこの前と違う顔してるような気がした。

暖かい日差しに照らされキラキラ光る赤黒のユニフォームを着た私に向かって

「今日は息子、サッカーの練習で来れなくなちった」

そういうと自分も上着のファスナーを少し降ろし赤黒の服を私に見せた。

 

そして2人きりでドーム内に歩いた…。

 

 あの定食屋さんで見た巨人のおじさんの人生は幸せだったのかなぁ。

僕はサッカーの上手い隣を歩く彼に憧れてたのかなぁ。

巨人のおじさんとそう歳の変わらない僕は歩きながら思った。

 

ドームでは赤黒と緑の芝生のコントラストがそれこそ映画のようで、彼と僕は大声でホームチームを応援した。