質問と応援と小宇宙からの帰還。
「ねえトト、なんでコンサの試合をドームとか厚別で見ると楽しいのかな?」
キミは時折、本質をつく質問をしてくるな…。
そしていつも私が最高の答えを探し、心の小宇宙を遊泳している間に私の前から消えさっている。
現に今だってそうだ。
さっさと自分の部屋でYouTubeを見ているではないか。いつもの馬鹿笑いが聞こえるぞ。
さっきのは独り言か?
だったら質問の枕詞にトトをつけないで欲しい。
そんなにトトの答えに興味はないかい?
まぁ、確かにいつも私はふざけている。
大事な事はだいたいカカに聞いとるな。
ある意味その選択は間違ってはいない。
残念な事にカカはいない。夜勤だ。
しかし、しかしだぞ。
私にはカカには無い面倒くささがある。
小さい頃に面倒くささを体験して置く事は将来何かの役にたつかもしれん。トトのトトも面倒くさかった。だから見てみろこんなに立派になったではないか…
わかるかな?まだわからないかもしれない。
わかる様になるまでキミはもっと成長しなければならない。
成長をし恋をして振られ、社会に出て働き恋をして振られ、上司に理不尽な事をされて恋をして振られ、ある時ハタと自分の才能の無さに気づきそして、そう恋をして振られて…
と長き人生を転びながら歩いてきてやっとわかる境地だ。トトはその境地まで辿り着いた。
これはコロコロコミックやボンボンには載ってないぞ。ましてはスコラやデラべっぴんには決して載ってない。そう、あのスコラ。スコラはトトの人間形成に多大な影響を与えているかもしれない。小学校の校庭の裏の森林に落ちていたスコラをトトはクラスの男子を代表して拾いに行った。男には期待に応えなくてはならない時があるだろう…それでなんだっけ?
お前の質問?
そう、なぜコンサの試合を現地で見るのは楽しいのか?だな。
……。
難しい。
それは普遍的な問題だ。トトは困った時は歴史の名言に学ぶ。
かのシェークスピアはこう言っている。
「それが貴方の国では応援と呼ぶならば
私の生まれた国の「生きている」という言葉と同じだわ!」
どうだ。わかったか?そう…、嘘だ。
私が作った。とっさに名言が浮かばない時もある。それに若干、シェークスピアに威厳を借りてしまったところもある。ホレ、アレだ、虎の威を借る狐だ。これはトトが作った訳ではない。チャナの人気を借りる都倉。これは今使った。まぁいい。こうやって無駄な考えを彷徨う事も本質への近道の時もある。
では何がいいたいかと言うと、
「応援をするという事は対象に少なからずとも自分という者を重ねる行為を含んでいないのか?」
他者に自分を重ねる。
消して聞こえはよくはないな。
だがそれ自体は恥ずべき行為ではない。
たしかに他者に自分を重ね、それを思い通りに操るのは間違っている。
しかし、どうだ。
ピッチで走り回る選手を見てお前も一緒に走ってはないか?
ゴールを外した時のせつない思いにならないか?
無意識の中で自分への激励、自責、承認を繰り返す。
だからこそあの勝った時の歓喜、敗れた時の失望。トトは決して他人の行為として味わってはいないんだ。
トトもあの赤黒に身をまとった選手の一員だ。
あの11人だけではないぞ。歴代の選手達も一緒だ。その証拠に過去のレプリカも着る。決して毎年買えない我が家のお財布事情のせいだけではないぞ。
そうやって色んなストーリーを選手、いや自分に乗っけてあのゴール裏にいる。そう、
「声援を自分自身に贈っているんだ…」
ふに落ちないのかね。確かにトトもそう思うのに少し抵抗がある。でもそう考えるとキミの質問にもトトなりに一本筋が通る。
応援するそのプレースタイルは自由なんだ。
自分の行動は自分が決める事と同じだ。
マナーはあるがルールはない。
座席はひとつだが応援スタイルは無限だ。
誰の真似でもない自分の応援いやプレーを
選手と一緒に表現する。画面というフィルターがない。体感だ…。
どうだ?楽しくない訳が無いだろう?
ブーイングも拍手も自分へ。
そうして人の喜びも痛みも想像するんだ!
野次を飛ばせるか?
トトはそんなに強くない。
自分自身に野次を飛ばすほど強くない。
だからこそ、勝っても負けても一緒にいたいんだよ…。
ここまで考えてわかった事がある。
私はいったい誰に話しているのか?
リビングには私だけだ。
小宇宙から我が家に戻りわかったよ。
しょせん、エンドレスの独り言って事に。
だとしたらお前の最初の質問も幼いなりの
自分の人生への問いかけだったのかな。
そんな独り言をよそに
お前はYouTubeの次は風呂に入るのか…。
一人で風呂に入れるようになったか。
昔はあんなに私と一緒に入りたいと言っていたのに。
しかしいくらクラシックを一人飲んだくれているからと言って放置プレイが過ぎやしないか…。一言なんか言ってからでも…
「ねえトト?」
な、なんだ?次の質問か?
どうだ、コッチに来てトトの相手を…
「あのさバスタオル用意しといてねー」
…マイウェイな奴だなお前は。
わかったよ。
用意しようじゃないか?
そこにいるのは私そっくりの一人よがりな男の子だ。
私がお前にできる事はバスタオルを用意する事と…応援する事くらいだよ。
応援?
じゃあトトはお前にも自分の人生を乗っけているのか?
安心しろ。
さっきも言っただろう。
人生を乗っけても操る事はしない….
一緒にフカイ、フカイ人生を…
「ねぇトト?あとさ…」
まだあるのか?
「フカイ、フカイ」
ナニ?
「フカイさんがピッチに倒れた時
トトもカカもなぜか痛そうな顔するじゃん。
あれってさあん時ってトトも深井さんになってるんだよね…」
お前、聞いていたのか?
いやそんな訳はない。
声には出してないはず。
いや酔って心の声が漏れていたのか?
それともお前の声が幻か?
まぁ….いいか…。
しっかりとあったまるんだよ。
トトはこのままリビングで寝てしまいそうだ…。
また一緒に観に行こう。
なぁに、ちょっと車で5時間だ。
それに運転するのはカカがやってくれる。
お前とトトは応援に専念だ。
応援。
コンサに。
応援するお前に。
ホラ、開幕はすぐそこだよ…。
「ねえ、トト!シャンプーないよ!」
おやすみ…。