CONTAkun’s diary

北海道コンサドーレ札幌サポでございます

ルヴァン・ゲリオン ③

Episode Ⅲ「アスカ、今日か」

(Episode Ⅰ・Ⅱ 未見の方は是非…)

「ネネ、新しい「ケシキ」のシキはムラサキシキブのシキ?」

不意の質問に寝不足もあってか、質問を理解するまで時間を要した。

昨日は1時頃までちょっと参考書を開いていて、でもその割に今朝は珍しく気持ちよく早起きできた。

弟の質問はいつも唐突に、そして鋭角にくる。

えっと…ケシキ?「景色」か。

で、質問はなんだっけ…。

「ねえ聞いてる?ムラサキシキブのシキかって聞いてるの‼︎」

弟は膝下の猫に食事を与えてるかのように朝食の食パンをボロボロとこぼしながら私からの答えを急かす。

あ…、紫式部ね。

しかし「式」を尋ねるのに紫式部を持ってくるところと景色の「シキ」がわからないアンバランスさ。そんな弟に答えを言う前に思わず笑ってしまった。

「またそうやってバカにして笑う!早く産まれたのはそんなに偉いのか!」

弟の白熱ぶりを覗くように猫が朝食のお代わりを待っている。

「ごめん、ごめん。イロよ。色。紫色の」

「紫イロ?あってんじゃん!紫色武で!」

私は小さく息を吐きこれ以上彼のプライドを傷つけないように努めて冷静に言った。

「何で式を聞くのに紫式部を出すの。だからこんがらがるの。色鉛筆のイ・ロ」

「あっ色か…。ネネだって紫色って言うからこんがらがるだよ」

「じゃあ何色で言えばよかった?」

弟はニヤリと笑った。

「それは血を争えない!赤黒、一択でしょ‼︎」

7つ離れた弟の得意げな顔を見て

それは2択だよと言うのはやめといた。

 

父も母も早くに出かけた朝。

学校へ行くまでの時間。

弟とこうして意味があるようで、ない会話をするのは嫌いではなかった。

例えば母がいれば会話にあっという間の答えを出してしまい、父がいれば会話があらぬ方向に進んでいってしまう。

同級生ともまた違う彼との会話はたぶん他の小学3年生とは違う弟との趣向も相まってけっこう楽しい。

「先週の習字の授業の時さ、今度の金曜の授業の時まで2文字の単語を決めて来いって先生に言われたんだ。まぁ明日まで決めればいいんだけど俺は余裕を持って決めたいタイプなんだ。そうしないといい作品は書けないでしょ?」

余裕を持って起きた事ないくせに…。

「それで今朝、閃いたんだ。トトがよく言う『景色』はどうだろうと思ってさ」

「なるほどね。いいんじゃない」

相槌を打ちながらオレンジジュースをのむ。

このオレンジジュースはなんだかいつもよりすっぱい。たぶん父が母に頼まれ買ってきたんだろう。そういう所、というかサッカー以外はまるで無頓着だ。だって一度も見た事ないパッケージ。そう、新しい景色。

自分で思って少し笑った。

「何?何が面白いの?」

「いや、ちょっとトトの事思い出して」

「そりゃ笑うは。あっそう言えば」

また唐突に何かを思い出したようだ。

「昨日変な夢見てね。何故かトトが隣で寝てんだよ。そしてね、ぶつぶつなんか言ってるの?

ね!へんな夢でしょ」

「ふーん」

でもそれ夢じゃないわよ。

昨晩…

トトの部屋の掃除を巡って一悶着いや、カカの一方的な襲来があったのは参考書を読む私の部屋まで届いていた。あの二人は暇さえアレはいい争っている。

この間の家族4人での埼玉スタジアムへの初遠征の時だってすき焼きは豚がいいか、牛がいいかもめてた。なんでそんな話になったかまるでわからないけど保安検査場への列の中でよく見る二人がなかなかの声でそれぞれの肉の優位性をいいあってるのを見て、この二人は会話を楽しんでるんじゃないかと思った。

そう、私が弟との会話を楽しむように…。

確かに血は争えないとはよく言ったものね。

さてと…かの弟はもうすっかり朝食を切り上げベンチコートを着込んでランドセルを肩に引っかけている。なんでも友達と教室一番乗りを競っているらしい。そういう所は男子の小学3年生。「お先です」と、今度は大人びたセリフを言う。リビングを勢いよく飛び出していく背中に「忘れ物してない!」

そう声をかけたのだが返事は玄関のドアが閉まる音だった。

さてと、私も今日は早めに行こう。

今週も今日で学校に行けば終わり。

そしてもうすぐ2学期も終わり…。

ん?今週は今日で終わり?金曜日…。

今日は金曜日よ…。

「習字の授業は明日じゃない今日よ‼︎」

私は弟の部屋から習字セットをなんとか探し出した。そしてリビングのテーブルの上に無造作に置かれたスポーツ新聞をその中に入れ、慌てて弟のあとを追う。

「あーあ。今日はちょっと遠回りだ。せっかく早く起きたのに」

そう言って出た外は眩しい太陽によって雪がキラキラ光る。

 

それはいつもの朝の「景色」だった…。

             …To Be Continued